読了

集英社文庫819 カルチェ・ラタン 佐藤賢一
 佐藤さんの本は、「ジャガーになった男:集英社文庫」、「赤目のジャック:集英社文庫」、「ダルタニャンの生涯:岩波新書」と読んできて、「集英社文庫 王妃の離婚」も買い込んであります。時代小説というと最近中国ものが増えてきましたが、西欧ものはまだまだ珍しいです。イタリアに限定すると塩野七生がいますが、これだけ欧風化している割にはその他がなかなか思いつかないようです。何しろ文学の本家本元でわざわざ日本人が書かなくても、読むものに不自由しないのですから、読んでいて違和感のない西洋世界を生み出すのは大変です。その中で佐藤さんは背景を十分に調べた上で非常に魅力的な作品を生み出されています。多分、訳本にして持っていってもベストセラーになるんではと思わせてくれます。特に、今回の構成と人物設定は最高です。17世紀のフランスの本を翻訳したという体裁ですが、中身の文章は非常に現在的。泣き虫ドニの成長譚をベースに何のごとき名探偵とのコンビの推理小説、背景にキリスト教の変動、哲学、オウム真理教を思わせる教団との対決など次から次へと興味を尽きさせません。何よりも人物像、この時代のフランスの人たちはこのように生き、語ってはいなかったはずとは思うのですが、それでもあり得るかもと思わせ、それでいて現在の人から共感をよぶのは作者の力量でしょう。文庫での厚さはすごいですが、残りが少なくなるにつれ寂しく思うような本です。そして、完結していて、続編を読みたいと思わせないのもいいですね。はじめから計画されているのならともかく、評判がよかったためだらだらと続編が続くのはみっともないものです。さてこれから、「王妃の離婚」を読んでみようかな。